円安で増えただけかもしれない:資産管理スプレッドシートが静かに間違う3つの場所
1万ドルの米国株を1ドル110円で買って今も1万ドルなら、株は増えていないのに円では36%増えて見える。自作の資産管理シートが静かに間違う3つの場所と、直し方をまとめた。

1万ドルの米国株を1ドル110円で買って今も1万ドルなら、株は増えていないのに円では36%増えて見える。自作の資産管理シートが静かに間違う3つの場所と、直し方をまとめた。
本稿の金額は計算のための例で、為替レートも実際の値ではありません。税金の説明は一般的な内容で、個別の判断は税理士や証券会社にご確認ください。確認時点は2026年10月31日(アジア時間)です。
1万ドルの米国株を、1ドル110円のときに買ったとする。今も評価額は1万ドルのまま、為替は1ドル150円。
円で見ると、110万円が150万円になっている。36%の増加だ。でも、株は1ドルも増えていない。
こういう数字が、自分で作った資産管理のスプレッドシートには静かに紛れ込む。金融庁の調査ではNISA口座は2025年12月末で2,820万口座、2025年の買付額は18.7兆円にのぼる。証券会社の画面だけでは足りず、Googleスプレッドシートや Excel で自分の資産をまとめている人も多いはずだ。
私も米国株に投資しているので、他人事ではない。第73回と第74回は会社の値段と持ち分の話だったが、今回は自分の資産の話を書く。間違いやすい場所は3つある。どれも、見た目にはもっともらしい数字が入る。
1つ目:増えたのは株か、為替か
冒頭の例を、もう少し丁寧に見る。
| 見方 | 買ったとき | 今 | 増減 |
|---|---|---|---|
| ドルで見る | 1万ドル | 1万ドル | 0% |
| 円で見る(買った日の為替) | 110万円 | 150万円 | +36% |
| 円で見る(今の為替で計算し直す) | 150万円 | 150万円 | 0% |
厄介なのは3行目だ。シートに為替のセルが1つしかなく、買った金額まで今の為替で計算していると、過去の円の損益がまるごと消える。誰もそう決めた覚えがないのに、そうなっている。
逆に2行目だけを見ていると、円安のおかげの分まで「投資がうまくいった」と思ってしまう。同じ1万ドルでも、1ドル130円に戻れば130万円だ。株が動かなくても、20万円減って見える。
これは税金にも関係する。外国株の損益は、買ったときと売ったときの為替でそれぞれ円に直して計算するのが基本だ。
たとえばNISAの外で、1万ドルを110円で買い、9,500ドルに下がったところを150円で売ったとする。ドルでは5%の損だが、円では110万円が142.5万円になり、32.5万円の利益になる。約20%の税率なら、税金は約6.6万円だ。ドルで損をしたのに税金がかかる。銀行の手数料などを入れれば数字は少し変わるが、仕組みはこうなる。
私はこの例を計算して、少し寒気がした。ドルの画面だけを見ていたら、税金の分は完全に見落とす。
直し方は単純で、買った日の為替を別の列に残す。そしてドルの損益と円の損益を、両方出す。
2つ目:買い増しで利益がずれる
積み立てや買い増しをしていると、次はここでずれる。
同じ銘柄を2回に分けて買い、一部を売ったとする。100株を1,000円で、さらに100株を1,500円で買った。そのあと100株を1,600円で売る。利益はいくらか。
| 計算の仕方 | 1株あたりの買値 | 100株の利益 |
|---|---|---|
| 最初に買った分で計算 | 1,000円 | 6万円 |
| 平均の買値で計算 | 1,250円 | 3.5万円 |
| 最後に買った分で計算 | 1,500円 | 1万円 |
同じ売却なのに、利益が6倍も違う。国税庁のルールでは、同じ銘柄を何回かに分けて買った場合は、平均を使う方法(総平均法に準ずる方法)で計算する。つまり正解は真ん中の3.5万円だ。
自作のシートでよくあるのは、買値のセルを1つだけ持っていて、買い増しのたびに上書きするか、そもそも更新を忘れるパターンだと思う。特定口座なら証券会社が計算してくれるので、確定申告で困ることは少ない。ただ、自分のシートの数字が証券会社の画面と合わなくなり、どちらが正しいのか分からなくなる。
なお、特定口座の分と口座の外の分は、同じ銘柄でも別のものとして計算する。複数の口座を持っている人は、口座の列も要る。
3つ目:入金を「増えた」と数えてしまう
これが一番多いのではないかと思っている。
毎月5万円を積み立てていると、1年で資産は60万円増える。株価がまったく動かなくても増える。シートの「資産の推移」のグラフは気持ちよく右肩上がりになるが、増えたのは自分のお金だ。
逆の間違いもある。評価額400万円の銘柄を100万円ぶん売って、現金にしたとする。
| 項目 | 正しい記録 | 売却を反映し忘れた場合 |
|---|---|---|
| 株の評価額 | 300万円 | 400万円 |
| 売って得た現金 | 100万円 | 100万円 |
| 合計 | 400万円 | 500万円 |
売った分を減らし忘れるだけで、資産が100万円多く見える。1回の入力漏れで25%の水増しだ。
確かめ方は2段階ある。
まず、シートの保有数量と現金の残高を、証券会社の画面と見比べる。売却の反映漏れは、ここで見つかる。シートの中の計算をいくら見直しても、この間違いは見つからない。
数字が合っていたら、次の式で本当に増えた分を出す。
増えた分 = 今の資産 - これまでの入金の合計 + 引き出した合計
これで初めて、資産が増えたのか、自分のお金を入れただけなのかが分かる。私はこの1行が、シートの中で一番役に立つと思っている。ただし、この式は間違いを見つけてはくれない。先に残高を合わせておくのが条件だ。
間違いにくいシートの作り方
3つに共通しているのは、最新の値を上書きしていることだ。
スプレッドシートの誤りを調べた研究は、思ったより厳しい結果を出している。Raymond Pankoのまとめでは、新しい現場の監査で表の86%以上に誤りが見つかり、Powellらの2009年の監査では数式セルの0.9〜1.8%に誤りがあった。家計のシートをそのまま測ったものではないが、10銘柄×3項目×12か月で年360セルを触れば、数か所は間違えても不思議ではない。
だから間違いをゼロにするより、間違いに気づける形にする。コツは、売買を1件ずつ行として足していって、残高は計算で出すことだ。

| 種類 | 列 | 触り方 |
|---|---|---|
| 売買の記録 | 日付、口座、銘柄、売買、数量、単価 | 1件ずつ行を足す |
| お金の記録 | 通貨、その日の為替、手数料、入金・出金 | 1件ずつ行を足す |
| 計算で出すもの | 保有数量、平均の買値、今の価値、ドルの損益、円の損益 | 手で入力しない |
あとは月に1回、証券会社の画面と数量・買値・現金の残高を見比べる。合わなければシートのほうを疑う。これだけで、3つの間違いのほとんどは見つかる。
向かない人のことも書いておく。インデックスファンドを1本積み立てているだけなら、シートは要らない。証券会社の画面で十分だ。シートを作る時間で、積立額を見直したほうがいいと思う。複数の口座や通貨にまたがって、全体を自分で見たい人に向いている。
AIに表を点検させる方法も、これから増えるはずだ。ただ、「AIが見たから正しい」とまではまだ言えないと思う。元の数字が上書きされていたら、AIにも分からないからだ。
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参考資料
- NISA口座の利用状況(第一生命経済研究所、金融庁の調査をもとにしたレポート)
- No.1466 同一銘柄の株式等を2回以上にわたって購入している場合の取得費(国税庁)
- No.1463 株式等を譲渡したときの課税(国税庁)
- 外貨建取引の円換算に関する裁決評釈(税務大学校)
- Spreadsheet Errors: What We Know. What We Think We Can Do(Raymond Panko)
- Errors in Operational Spreadsheets(Powell, Baker, Lawson、2009年)
次号の記事案
- 案1:上場した途端に値段が下がるのはなぜか — 未公開のときの評価額と、上場後の株価の差を、公開情報で読み解く。
- 案2:スタートアップに転職する前に見る5つの数字 — 残りの資金、売上の伸び、調達の間隔など、外からでも確かめられる数字を並べる。
- 案3:自分の資産シートをAIに点検させてみた — どこまで見つけられて、どこで見逃すのかを、わざと間違いを入れたシートで試す。
本稿は投資助言や税務の助言ではありません。記載した企業の有価証券を筆者が保有している可能性があります。作成には生成AIを利用しています。投資判断の前に免責事項をご確認ください。












































































